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Kyohei
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阿部恭平の
ブログ

Vol.235
2023 11/19 Sun.
カテゴリー:

まずい飯の記憶

学生の頃、ある友人が教授に相談を持ちかけると大学の近くのラーメン屋でご馳走してもらえることになった。醤油ラーメンを頼んだがとにかくまずかったらしい。しかし塩ラーメンを頼んだ教授はスープまで飲み干していたようだ。

それでその友人は私に声をかけた。あの教授の食べっぷりを見ると、もしかしたら塩ラーメンはすごく美味しかったのかもしれない、今度はそっちを食べてみたいから一緒にいこう。共に塩ラーメンを頼む。食べはじめてすぐ、お互いに「まずいね、これ」となる。店を出たあと「あの教授、文芸批評家のくせに、食べ物の批評は0点だな」とか文句を並べた。

その後も何かと「あの店いったことある?まずいよなー」とか友人や知り合った人とは盛り上がったものだった。まずい料理でなぜか盛り上がる。卒業してしばらくして閉店したと聞いて少し残念だった。二度と行くつもりもないのに。勝手なもんだね。

かつて住み暮らした街で、すごく美味しいラーメン屋があった。それこそ遠くからもラーメン好きの人が来るような類いの店だ。自分はそこまでラーメンにこだわりなく、数年に一度食べるかどうか、ぐらいなのだが、そこの店は好きだった。具やスープなど、色々な麺類があったがどれも美味しかった。鮭チャーハン、キムチチャーハンなども絶品。ただ唯一、そこの餃子だけは「手作り!」とか「名物!」とか書いてある割にちっとも美味しくなかった。誰か初めてきたようなお客さんが麺類のついでに餃子を頼んだ際には、一緒に行った家族や友人と顔を見合わせて「あー、お気の毒に。頼んじゃったか」とニヤニヤしたものだった。「餃子はやめた方がいいですよ、他のにしましょうよ」とは言えない辛さよ。

こちらも閉店してしまったが、どこかで何か一品だけパッとしないお店を知ると「あそこの餃子みたいなもんか」などとよく思い出す。まずさを思い出すことはできないし、決してまた食べたいわけでもないけど、意外と懐かしいのはまずい料理。そして感激するほど美味しかった店や味は、意外と挙げるのに迷ったりする。人間の感性は不思議なことばかり。

そういえば吉行淳之介だったか、とてつもないブスがいると噂を聞き、遠くのクラブに足を運んだことがあると言う。絶世の美男美女はごくたまにいるけど、絶世の不細工、ブスはまずいない。言われてみればそんな気もする(ひどいルッキズム!でもルックスの話をしているのだから仕方ない)。一度見てみようか、と、怖いもの見たさで彼も行ったんだろう。食も似たようなものなのかもしれない。

そう考えると芸事は心が狭いのか、下手なもの、質の悪いものを意外と懐かしむ、とか思い出すなんてことはあまりない。そもそもそんなものにお金を払いたくない、となるのが当たり前だろう。食べ物や人間ほど、生活に密接していないからだろうかね。厳しいようだけど仕方ない、そういうものである。

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