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阿部恭平の
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Vol.237
2023 11/30 Thu.
カテゴリー:

弘法は筆を選ばないのか、選ぶ気もないのか?

マークジョンソンというベーシスト。多くの場合はビルエバンスの最後のベーシストとして語られる。自分はコントラバスを弾き始めて少しの頃、晩年のエバンスに大いにハマり、彼は紛れもなく私のアイドルだった。参加しているCDを買い集め、初めて生で聞いたときにも感動したものだった。ただその後も好きなベーシストは増えるし、場合によっては好みや趣向は変わり、嫌いになったことはないけれど常に一番興味あったわけではないし、しばらく聞かない時期もあった。
彼のソロアルバムが数年前に出た。Overpassという作品。2曲ほどは多重録音しているけれど、他の曲は彼一人の独奏だ。元々私はその手のアルバムいくつか聞いているが大抵の場合はとんでもない技術の披露、派手さが気になるばかりで「うまいねー」か「すごいねー」で終わることが多かった。もしくは完全即興、フリージャズを謳う代物でノイズ音の羅列にしか聞こえなかったりくらいで。いずれにせよ何度も聞くようなことはなかった。しかし彼はまあ昔から追いかけているベーシストの一人ということで、あまり期待はせずに試しに聞いてみた。するとどうだろう。Nardisやスパルタクス愛のテーマなど、自分が好きな曲をやっているということもあったが、珍しくすんなりと聞けた。その後CDを購入してからも比較的聞いている。
そんなCDについての彼の談話を見つけた。彼の奥さんはイリアーヌというブラジル人ピアニスト兼シンガーなのだが、彼女の里帰りにあわせて録音したという。楽器も信頼するブラジルのベースショップに用意してもらって、その楽器で。いやいや、ちょっと待ちなさいよ、久しぶりの個人名義の作品発表で、自分の楽器を使わなかったということ?
楽器を自分のパートナー、身体の一部みたいに考える人も世の中にはたくさんいる。クイーンのギタリストがおじいちゃんの作ってくれたギターを弾き続けているとかちょっとほっこりするし、楽器じゃなくともイチローがバットを他人に触らせないとか、そういう話もありますね。
逆に初めての楽器でも気にせず弾く人もたくさんいる。実は私もおそらくそっちのタイプで海外はもちろん、国内でも楽器を用意してもらえる時はだいたいそれで済ませている。よほど状態悪いならともかく、「大きめのタクシーを用意してもらうかな」などと神経をすり減らすより、早めに到着して現地の楽器に慣れていった方がいい。だいぶ昔、東京ジャズに出演したときに「来日ミュージシャン用にペルマンが用意されてるから使っても良いらしい」と聞き「ペルマン、名器じゃん!やったー!」と都内にも関わらずその楽器を弾く気満々。機材と弓だけ持っていった時はメンバーも多少驚いていた。(ちなみにすごく弾きやすくて楽しかった。今思えば同じ条件でやりたい、と思ったのかもしれない)
しかしそんな私でもレコーディングを自分の楽器以外でやるのは思いもつかない。ましてや独奏でしょ?いやあ、驚いた。しかも一応同じ楽器を弾き、長年マークジョンソンを聞いている自分がCDを聞いて「いやあ、実に彼らしいなあ」などと思っていた。自分の聞き方が浅いのか、弘法筆を選ばずなのか。少なくとも彼は「普段弾いている楽器でなくては個性が出ない」とは思っていないのだろう。そもそも個性とは何なんだろう。またまだ学ぶこと、考えさせられることが多い。

とりあえずそのブラジルのコントラバスメーカーはフォローした。いやいや、買うわけないでしょ。ただ触れてみたいとは思う。うん、もちろん、触れてみるだけ。

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