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阿部恭平の
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Vol.166
2021 07/30 Fri.
カテゴリー:

ハイフェッツとピアティゴルスキーの茶番劇から

かつてバイオリンに興味をもって色々聞き始めた頃、例にもれずというか、やっぱりというかハイフェッツに夢中になった。今でも特に好きなバイオリン奏者の一人だ。バッハ無伴奏、メンデルスゾーンやチャイコフスキーの協奏曲、ガーシュインやドビュッシーなどの小品、(選曲やアレンジも含めて)どれをとっても好みである。テンポが速すぎる、音楽性の深みはない、みたいな批判もあったようだが、私にはその批判の意味するところすらわからない。CD屋で知らない曲を耳にして「いい音色だなあ、誰だろう」と店頭で確認するとハイフェッツということも幾度かあるから、単純に好みなんだろう。オイストラフとハイフェッツ、この二人が私にとってはずっと別格になっている。
ハイフェッツのDVD作品の中にピアティゴルスキーとのものがある。私はチェリストのなかではピアティゴルスキーもかなり好きなので喜んで購入した。演奏は申し分なし。ただしその内容の茶番たるや、すごいものであった。
演奏の場面だけでいいのに、ドキュメンタリーのようになっている。彼の練習風景など(これは真実ならばありがたいけれど)、日々の生活が映される。やがて突然にして大学のホールかどこかでピアニストと軽く演奏している風景にかわる。「素晴らしい、もっと弾いてください」と校長が頼み、ハイフェッツは難色を示すも続ける。やがて学生達が「ハイフェッツさんが演奏会をやってるぞ!」と集まってくるのだが、学生達が外からホールに駆け込み、うっとりと聞く様子も全て映る。いつの間にかそんなにたくさんカメラ設置したのやら。何曲かやった後ハイフェッツはわざとらしく腕時計を見つめ、(最初続けるよう頼んだはずの)校長が「学生諸君、ハイフェッツさんは予定があるからそろそろお開きに…」とか言うと学生はブーイングの嵐。ハイフェッツは校長に「まだ時間は大丈夫だから」と言わんばかりに微笑み、演奏を続ける。学生は拍手喝采。なんだこの茶番は。最後の一曲を迎え、学生たちにリクエストを問う。すると「ホラスタッカート、ホラスタッカート!」という学生とは思えぬおじさんの声だけがやたら響き、ハイフェッツは納得したように頷き、18番のホラ・スタッカートを始める。(なおピアニストは譜面を既に準備している)やらせもここまでやれば大したものだ。

ピアティゴルスキーの方もドキュメンタリーを録りたがっている女性との茶番が繰り広げられる。いやはや。名誉のために再度言っておくけれど、演奏はハイフェッツもピアティゴルスキーも素晴らしい。ハイフェッツのブラームスの小品もいいし、ピアティゴルスキーのバッハ、プロコフィエフやチャイコフスキーの小品は何度も見た。ピアティゴルスキーのスピッカートは魔法のようだ。
それにしても、どういう意図があったのだろう。演奏だけの映像だと「何かが足りない」と思ったのだろうか。彼らも今ほどの扱いではなかったのかもしれないし、(彼らほどの稀代の名手にしても!)何かしらの付加価値をつけたいという意図が働いたのかもしれない。
演奏家は演奏さえしてればいい、というような、うぶなことは思ってないけれど、半世紀以上前から、このレベルの音楽家でも茶番の演技をさせられている。現代人も色々と手を出すのも仕方ない。とはいえ、やりたくないことはやらないんだろうけど。

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