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阿部恭平の
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Vol.170
2021 08/28 Sat.
カテゴリー:

アンダーグラウンドとの因縁

クストリッツァの「アンダーグラウンド」を観る。思えばこの20年間、すれ違い続けた作品であった。
最初に知ったのは自宅でだった。十代のころ帰宅すると、父親が夜に一人で映画を見ており、もうエンディングだった。その情景に興味をそそられたので作品名と監督の名前を尋ねて教えてもらう。アンダーグラウンド、監督はクストリッツァか。縁のない名前だな、ほほおユーゴスラビア人か。父は「フェリーニぽいなあ」などと呟いていた。
その後、彼の「黒猫、白猫」を知る。ユーモアにあふれた、実に良い作品だった。音楽も東欧の民謡をロックバンド+ブラスで演奏しており、映画によくあっていて興味深かった。
フランスに住み始めたばかりのころ、言語学校で同じクラスになったアイスランド人の青年と話してみると、彼はフランスの映画学校に進み映画関係の仕事をしたい、と言っていた。彼に好きな監督を聞くとクストリッツァとのこと。「黒猫、白猫」の話で盛り上がり、「あのサウンドトラック持ってるからコピーしてあげるよ」と後日CDをもらった。彼は「アンダーグラウンド見なよ、最高だぜ」と言っていた。(もう彼の名前も忘れてしまったが、どうしてるのだろう。あの頃はお互い英語で喋ってたけど、無事フランスで映画を学べたのだろうか)
それから8ヵ月ほど過ぎたときに、フランス人の友達からゴラン・ブレゴビッチのコンサートのチケットがあるので一緒に行かないか、と誘われた。ブレゴビッチの名前も知らなかったが、せっかくなので行くことにする。場所はなんとシャンゼリゼ劇場。「ブレゴビッチはクストリッツァの映画の音楽にも携わっていて」とか言ったので「あー、黒猫白猫は見たよ。あの音楽なら楽しそうだね」と言うと、「いやそっちじゃなくて、アンダーグラウンドの方」と彼女は返した。そっちはまだ見てないや、と返すと「あれは最高よ」と言っていた。ブレゴビッチの音楽はロックの編成にジプシーブラス、さらにはブルガリア聖歌隊まで加わり、迫力たっぷりで堪能できた。(彼女の子供も当時5歳ぐらいでキャッキャッと私に懐いていたが、七年前にパリであった時は中学生。久々に会ったが当然私のこともあまり覚えているわけでもなく、居心地悪そうにしてた。もう二十歳ぐらいになっているのかな)
その後も時おりクストリッツァやこの作品の名前を耳にしたが(オダギリジョーもクストリッツァのファンでこの作品好きなんだっけな?)、不精なもので自分から映画を借りるということはなく時が過ぎた。というわけで、これだけこの作品の近くを通りながら、やっと機会を得たことになる。それだけでも実に感慨深い。話の舞台はユーゴスラビアにおけるナチス、冷戦、内戦と戦争が絡み、多くの登場人物が亡くなるし、悲劇的である。しかしコメディーの要素も多いし、特に最後の場面は(かつて父もつぶやいたように)「8 1/2」や「アマルコルド」に通じた感動を覚えさせる。あとこれは当てずっぽうで言うけれど、アンゲロプロスの影響もあったのではなかろうか。時代背景は「旅芸人の記録」にそのまま通じるし、戦争にまつわるドラマと言う意味でも彼の作品に似ている。ただアンゲロプロスの映画に笑いの要素はほぼないけれど。
最後のメッセージ「この話に終わりはなく、まだまだ続く」というのは皮肉にも嘆きにも聞こえる。ギリシャもユーゴスラビアも戦争、冷戦、内戦と市井の人々は苦しみ続けていた。そして今もなお、アフガニスタンも。つい先日世界平和の象徴なる儀式が(賛否飛び交うなか)行われ、こんな感染症がはびこる中であっても、戦争が「まだまだ続いて」しまっている。

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