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阿部恭平の
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Vol.175
2021 10/18 Mon.
カテゴリー:

村上春樹について思いついた2,3の事柄

村上春樹の話から続けて。彼の作品と翻訳についてふと思いついたことがある。彼の代表作の「ノルウェーの森」。大いに流行ったらしいし、それこそ古本屋などに行けばしょっちゅう目にする。緑と赤のクリスマスカラーにもなりえるデザインも幸いしたのだろう、上下巻にわかれている。

ビートルズを知る人ならばこの題名がNorwegian Woodの日本語訳であることを知っていると思う。そしてそれが誤訳であるという話も有名だ。このWoodは家具や木材という意味で、複数形のWoodsかthe woodにしない限り森という意味にはならないし、一般的にはforestになる、という話。「知り合った女の子の部屋に入ったらまるでノルウェーの森」というような訳文を目にしたことがあるが、これはおそらくノルウェー製の家具があった、とかそういう意味だろう。もちろん作詞をしたジョン・レノンも当時は薬物でスリップすることも多かっただろうし、語感だけ求めてわけのわからない歌詞にした可能性もゼロではないが。(桑田佳祐氏もよくやりますね)

いずれにせよ村上氏はおそらくビートルズ曲の日本での通名を使って小説の題名にした。そうしたらその小説が大当たりしてそのタイトルも有名になった。よって(というといい過ぎかもしれないけれど)ラバーソウルの中の一曲であったNorwegian Woodも同様に有名になったんだろう。ビートルズの代表曲であることに間違いないけれど、「ビートルズといって一曲思い浮かべてください」とアンケートをとったとして、真っ先にこの曲が浮かぶものなのか、私にはよくわからない。ただしビートルズの話をしているときに、「ノルウェーの森」と言葉にすれば大抵の人はあの曲を思い浮かべるはずだ。

英語に堪能な村上氏が「ノルウェーの森」という訳を正確だと考えたかどうかはわからない。ただし幸か不幸か、「ノルウェーの森」という日本語を特に周知させたのは、彼の小説のタイトルなんだろう。

さてこれとは全く別の話でサリンジャーのThe Catcher In The Rye という作品がある。これは野崎孝氏の訳で「ライ麦畑でつかまえて」という日本の通名が有名になっている。まるで流行語のようになりましたね、この題名をもじった作品もたくさんあった。語感の良さもあるんだろう、無理矢理こじつけると「私をスキーにつれてって」「南国土佐をあとにして」なんかの語感のよさに通じるのかもしれない。この作品を21世紀になってから村上氏が翻訳した際、タイトルは「キャッチャー・イン・ザ・ライ」とカタカナ表記にした。(Wikipediaで調べたらかつて「ライ麦畑の捕手」と訳した人もいたらしい。これも意味としては正しい。しかし捕手といえば野球のキャッチャーを連想してしまうから難しいところだろうね)

こちらに関しては村上氏が正しい。物語の中でホールデン少年に「将来なりたいものある?」という話から「ライ麦畑で子供達が無邪気に遊んでいる。子供達は遊びに夢中で崖に気づかない。そんなときに子供達が崖に近づいてしまったときにギュッと子供達を捕まえて助ける人(the catcher in the rye)になりたい。自分がやりたいと思えるのはそんな程度の仕事だよ」というようなことを述べる。「捕まえる人」になりたい、という話なのに、これを「つかまえて」と訳したのはなぜなのか。やはり日本語特有の語感によるものであろうか。もしそうであれば、野崎氏は海外の詩や桑田佳祐の歌詞のように、意味以上にも語感を追求したといえるのかな。

野崎訳を批判するようなことを書いているが、当時の不良っぽいひねくれた少年の口調を精一杯訳したのはそれはもう立派なもので、その後の多くの翻訳作品、さらには日本語の小説にも影響を与えている。この作品が日本でヒットしたのも野崎氏の訳によるものも大きいだろうし、村上氏自身も彼の訳に影響を受けたと述べている(たしか)。翻訳とはどうしたって完全なものではないから何度でも時代に合わせて訳してもよい、というのは村上氏も述べているし、それもまた真理なんだろう。完璧な翻訳など存在しない、完璧な人間が存在しないようにね。(←ちょっと村上春樹の小説のセリフっぽい)

というわけで、本人は何にも意識していないし誰のせいでもないんだろうけど、彼の影響でビートルズ作品の誤訳が広まり、サリンジャー作品の誤訳が訂正されたことになる。たまたまこんなことを思いついて、長々と書いたけど、考えてみれば私は「ノルウェーの森」も読んでいないし、村上氏訳の「キャッチャー・イン・ザ・ライ」も読んでいない。いい気なもんだ。

 

最後に個人的に好きな村上春樹のインタビューでの答え。

Q: あなたはほとんどのチャンドラー作品を訳していると聞きましたが?

A(村上氏): ほとんどではありません、全てです。

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