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阿部恭平の
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Vol.190
2022 04/05 Tue.
カテゴリー:

寛容される過失

以前ポール・マッカートニーが話していた。あるときバッハの何かの曲を聞いていて「お、いいな」と思って進行や和音の音を確認した。その流れが気に入ってある曲を書くときに使い、プロデューサーのジョージ・マーティンは「ここのところ、面白いね。どう発見したの?」と聞くとポールはバッハの曲から拝借した、と答える。ジョージ・マーティンは後日バッハのその曲の譜面を確かめて「ポール、バッハのその曲ではそんなことしてないよ。正しくはこうだよ」と示したらしい。
そのときポールが作った曲はBlackbirdというもので、ビートルズの代表曲の中でも特に評価の高いものである。ポールが絶対音感をもっていたら(絶対音感がなくとも正確に音を拾っていたら)、あの曲は生まれていない!テストだったら減点される類いのものだろうけど、ミスや失敗というものも必ずしも捨てたものではないということだね。
しかし同じくビートルズの曲からの話だけれど、逆に「こりゃないな」という過失があった。おそらく10年くらい前、あるジャズサックス奏者がテレビでビートルズの曲を解説していた。私は彼の名前は知っていたものの、その演奏にそこまで惹かれたこともなかったのでぼんやり眺めていたら、レットイットビーの解説が始まった。レットイットビーはピアノの白鍵だけで(つまりキーCの中だけで)曲ができている、とかなんとか話している。ホワイトボードにキーCの和音名が羅列されてる中、彼がEマイナーというコードを指差しながら「(今の和音は)Eマイナー」と言った瞬間があった。レットイットビーのどこにEマイナーという和音が出てくるというのか。「簡潔な和音で作られた曲」としてこの曲を取り上げて語るはずなのに、なぜ誤った和音を加えているのか。
彼は(少なくとも当時)音楽理論に精通した進的なミュージシャン、みたいに評価されてるようだったけれども、私はただ呆れるばかりだった。音楽理論ねえ。仕事として曲を解説するなら(調べなくても正しく把握できているならともかく)「簡潔な」和音の流れくらい確認しておくべきだろう。こんな些末なことで、とも思うけれど、それが問われる仕事だから未だにこんな風に十年前のテレビの文句を書いている。彼が居酒屋で喋っていて「レットイットビーのEマイナーのところさ」といっただけなら「いや、そんなのないでしょう」で終わる話だけれど、なにせ仕事だから。その後も(たぶん今も)彼は音楽の歴史や理論について色々と語る仕事をしているんだろうが、私としては「レットイットビーの和音も把握できてない人が何か言ってら」くらいの感想しか持っていない。
こちらのミスはたぶんテストで減点されるようなミスではない。「指し間違え、言い間違え」と人々は受け入れるかもしれない。もちろん仮に撮影後に彼が「指し間違えた、言い間違えた、修正してほしい」と意思を見せたのにそのまま放送したというならば、責任の所在は別になるけども。
和音を把握しそこなう、というミスが称賛されることもあるし、明らかに批判されることもある。不思議なものだ。私の偏見が強すぎるってこともあるんだろうけど。

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