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阿部恭平の
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Vol.193
2022 05/10 Tue.

人のような、道具のような何か

近況報告。最近、ライブが見事にない。とはいえ、捨てる神いれば拾う神あり、というかなんというか、暇ってことでもなく、発表会や式演奏、あとイベント演奏などはそれなりにある。ホテルや結婚式場のブライダルフェアはまだしも、そのプロモーションビデオ撮影、なんて仕事もあることを考えると、だんだんと日常を取り戻そうとしているのだろうか。

そんな中でコントラバス、エレキベース両方の楽器について思うことがあった。先月末にエレキベースをよく弾く機会があったのだが、どうも音がくっきりしない。とうとうネックもいたんできたか、と不安になり、エレキベースを中心に弾く友人のミュージシャンに電話で相談し、その後の経過をみると彼の推測通りであった。簡単に言うとそれなりに張りの強い弦を張っていて、新たに(この場合久々に人前で仕事があったので)張り替えた弦が柔らかいものである場合、ネックがそちらに馴染むのに時間を要する、というものだった。ということで特に楽器の調整等が必要ということもなく、肩をなでおろすことになった。

そしてコントラバスの方は久々に楽器を始めた頃に使っていたスピコロアのミッテルと呼ばれるものを約20年ぶりに購入し、今使っている楽器に初めて張ったのだが実にしっくりくる。自分は柔らかい弦の感触が好きだったため、ミッテル(ミディアム:弦の張りの強さの話)ではなくヴァイヒ(ライト)と呼ばれる弦を種類問わずに使っていた。しかし今使っている楽器にだけ関して言うと、ミッテルの方が良い。というのはこの楽器はどんな弦を張ってもでもすこしテンションが柔らかくなる性質があるので、柔らかい弦を張ると特に張りが弱くなる。そのため弓で弾くと部分的にノイズが発生することがあった。おそらく弦が柔らかすぎるため、弓の圧力によって弦がどこかに当たるのであろう。そんなわけで季節の変わり目などには特にノイズが強く出てきて、「あーでもない、こーでもない」と弦の高さを調整していたが、煩わしい時間から解放されたのであった。かといって、全ての楽器にこの弦が最適か、というとまた別の話だと思うが。

楽器は慣れるのに時間を要するし、各々の個性があり、まさに生き物のようである。「その楽器で良い音を出す」ということを含めると、その特性や状態を把握するのも奏者にとって肝要であろう。私は以前にも書いたかもしれないが、パット・メセニーのエピソードを思い出すことが多い。何十年も前、彼がソ連で演奏することがあったが、その際に主催者から東欧のどこだかわからないギターを渡された。彼が普段使っているギターを使うのは社会主義国にとって好ましくない理由があったのだろう。「面倒くさいなあ」と思いながら、メセニーはライブを行った。ライブを終えてホテルでラジオをつけると、つい先ほど自分達が終えたばかりのライブの音源が流れてきたという。どう聞いてもいつもの自分の演奏そのものだったという。メセニーはこう締めくくっていた。「楽器はとても重要だが、そこまで重要ではない、ともいえる」

比較するのもおこがましいけれど、自分も海外や国内で楽器を借りて演奏したとき、その時は「弾き辛いな」とか「普段と違うな」などと思うことが多いけれど、その録音を(聞きたくないなあ、と思いながら)聞くとたいてい「あーやっぱり、自分の音だわ」と思うことが多い。改めて楽器は人のようでもあり、道具のようでもある。そこがまた魅力なのかもしれない。

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